ハンターマウンテン・スキー・エリア

Hunter Mountain Ski Area
New York, USA

スキー場の特徴


昼夜兼行の雪作り
Photo by Hunter Mt. Ski Area
 80年代後半、ニューヨーク周辺に約5万人の日本人が住んでいるといわれた。バブル経済華やかなりし頃であり、日系の企業がこぞって駐在員を派遣した時期であり、多くの日本人留学生がアメリカに滞在し始めた頃でもあった。急増した日本人人口のために様々なサービス、特に出版物が刊行された。その中に『ニューヨーク便利帳』と呼ばれる、一種の職業別電話帳があった。その中のニューヨーク周辺のスキー上昇界の項目で、ハンターマウンテンスキー場が『日帰り圏最大のスキー場』として紹介されていた。

 アメリカ東部最大の都市ニューヨーク。その中心部であるマンハッタンから車で約2時間。ニューヨーク・スルー・ウェーと呼ばれる高速道路を州都オルバニー市(余談だが、ニューヨーク州の州都はニューヨーク市ではない。地理的に州の中央部にあるオルバニー市である)へ向かって駆け上がること約1時間半。高速道路を降りてからローカルの道を走ること約30分。それほど急峻な山の中というわけではないが、ある程度、昇り降りを繰り返した後に到着するスキー場である。

 土曜日の朝7時にマンハッタンを出発し、2時間かかってスキー場に到着。すぐに準備をして9時から4時までのリフト営業時間を目一杯滑る。昼時はさすがに腹がペコペコになるが、レストランの長蛇の列にたじろぐ。結局、『時間がもったいない』とばかり、とにかくすぐに買える食い物を探し、やわら口に押し込む。1日の滑り終わったなら、ロッジ内のバーで渇いたのどにビールを流し込む輩を片目で見ながら、スキーの道具をそそくさと片づけてスキー場を出発。眠気と戦いながら高速道路を運転し、マンハッタン入り口の週末の渋滞をすり抜けてアパートへ到着。ここに来てやっと缶ビールの詮をプシュッといわせる・・・・。
これが筆者が過ごした、あるスキーシーズンの一こまである。とにかく体力さえあれば何とかやっていけた時代である。真冬といえど普通、マンハッタンの町中にはほとんど雪はない。スキーがしたければとにかくマンハッタンを脱出し、スキー場までたどり着かなければならない。北のバーモント州やニューハンプシャー州のスキー場へ車で行くには最低5時間。ちょっと遠い。かといってコロラド州やユタ州のスキー場へ行くには時間もさることながら金がかかる。ならば近場で何とかするしかない。

 ニューヨーク近郊には結構、スキー場がある。1時間ほどでたどり着ける場所が幾つかある。しかし町に近すぎると規模が小さく、おもしろくない。しかも平野部に位置するため、昼間の気温が上がりすぎてせっかくの雪が融けてしまいやすい。もちろんスノーメイキング・システムの充実度の問題もある。結果、選ばれるのがこのハンター・マウンテンスキー場とういことになる。

 このスキー場にはもう一つキャッチフレーズがある。『The Snowmaking Center of the World 』というものだ。スノーメイキングに関しては世界の中心、ということなのだが、スキー場側にいわせると『人工造雪発祥の地』ぐらいの意味あいを持たせたいらしい。
実際にスノーメイキングが最初に行われたのがどこのスキー場なのか筆者は定かではない。しかし大都市から2時間の位置で、スノーメイキング・マシーンが無ければスキー場などとは思いもよらない環境で、初心者からエキスパートまでそこそこ楽しめるトレイるを有す、ハンターマウンテンスキー場には『人工造雪の聖地』という言葉を贈りたい。

 都市近郊型のスキー場であるため、宿泊施設そのほかの、いわゆるリゾートしての要件はほとんど完備していないスキー場である。そのためアメリカの主要なスキー雑誌が主宰するスキーリゾート・ランキングにはほぼ無縁のスキー場の一つだった。しかしスノーメイキングに関しては、他の有名スキー場を押さえて上位入賞、ときには堂々の1等賞を獲得したことすらあった。
十分な積雪に恵まれるロッキー山脈系のスキー場にはおよそ無縁な話だが、寒さが厳しく、降雪量が少ないアメリカ東部のスキー場、バーモント、ニューハンプシャー、メイン、ニューヨーク、ペンシルバニアといった州のスキー場においてはスノーメイキングのシステムがどれほど充実しているかが、スキー場の評価の分かれ目の一つであり、スキー場の存亡にも影響するといっても過言ではない。
その環境にあって、都市型スキー場のハンターマウンテンがこれほどのシステムを完備している点は高く評価されて良いだろう。



山道の急カーブ的コース
Photo by Hunter Mt. Ski Area
 人工的に自然に近づけよう、とするため無理も出てくる。雪質の悪さはその最たるもの。もともと雪が少ない地域であり、降った雪も日中の日の光や暖かくなる気温で融けてしまう場所柄である。そこへ機械を使って無理に雪をため込もうとすればどうなるか。アイスバーンのオンパレードである。一シーズンかよった経験からいうと、粉雪に巡り会ったのは12月あるいは1月の気温の低い日のみ。それも十分に気温が下がった状況で機械が作り出してくれる粉雪を楽しむ、というものである。
日中の気温が一定以下に保たれている間は粉雪を楽しむことができる。しかしひとたび日中の気温が上がったり、日の光が強くなったりすると、次の日はガリガリのアイスバーンである。

 逆にスノーメイキング・システム稼働中に中途半端に気温が低い状況だと、べたべたの雪になってしまい、体中が樹氷のようになってしまう。場合によっては湿気を多分に含んだ雪の上を滑ると、スキーがストップしてしまう。なかなか難しいものである。

 おもしろい構造をもったスキー場でもある。段々畑的コースとでも表現しようか。正面のコースを頂上からベースロッジに向かって滑ると前半は幾つかの細いコースに分かれる。この細いコースが段々畑のように山の斜面に並ぶのである。スキーヤーにしてみると横幅の狭い、ガードレールで保護されたやたらと滑りにくいコースである。例えるならば、ガードレールで崖っぷちが防御された細い山道を車で走っているようなものである。しかもアイスバーンである。コースから飛び出してしまったら『奈落の底?』、というわけではないが、スキーヤーによってはなかなかスリルを味わうことになる。



スキー場正面 Photo by Hunter Mt. Ski Area
 最後に苦言を呈さなければならない。大都市のそばにあるスキー場であると共に、大都市の醜悪さが集約されてしまったスキー場でもある。
大都市。混雑、町並みの汚さ、治安の悪さ、不親切な人々・・・。それらが総てスキー場に引っ越してきてしまった。
週末のリフトの行列にはすさまじいものがある。日本のように2時間も3時間も、ということはさすがにないが、シーズン最盛期には30分近くかかってチェアー乗り場までたどりつくこともままある。
ごみごみした感じは都会の雰囲気そのもの。ベースロッジのダイニングなどはその典型だろう。慣れてしまうとその猥雑さも又、心地よしではあるが、昼食を乗せたお盆を手に席を探してぐるぐるまわるのもつらい。特に山頂のロッジというか休憩所のトイレ汚さには辟易した。清掃というものをほとんどしたことがないのでは、と疑いたくなるほど。筆者が最後に滑ってから数年以上たつので、この点だけは改善されていることを願う。

 治安の悪さも都会並みである。スキー場の駐車場に車を止めておいて、ドアの鍵穴をこじ開けられた、という経験はこのスキー場でのものが唯一。さらに悪い奴等がたくさんいるのだろうという予想がつくのが、リフト乗り場のチケットチェッカーの威圧するような態度と警官の監視。とにかく高圧的である。スキー場の職員であるチケットチェッカーと警官共に、『おまえらはどうせ悪さをしているんだろう』といわんばかりの横柄な態度。職務を果たす、自分たちの生活を守る、自分の町の会社(産業)の利益を守る、という主旨はよく理解できるのだが、筆者の我慢は一シーズンで尽きた。

 リフトオペレーターの態度の悪さもアメリカのレジャー産業の中では最低の部類だった。スキー場側の社員研修の問題だと思う。リゾートと呼ばれるスキー場ではシーズン中のみ雇用する人員は地元はもとより全米各地から集まってくる。そのため就業前に徹底した社員研修が行われるのだが、このスキー場の場合、地元のおじさん、おばさんの雇用が多かったように思う。結果、社員の接客についてはリゾートスキー場とは天地雲泥の差が出てしまう。
スキーヤーに対するスキー場の対応にもそれは出る。たとえばリフトチケットの付け方。スキージャケットやスキーパンツのファスナー等に付けるのが原則である。グローブや取り外し可能なリングを媒体にしてジャケットに付けるのは禁止されている。つまり1枚のチケットを複数のスキーヤーで共用するのを防ぐためである。
この件に関してリフト券売場でなんらの説明がなされていなかった。そのため、なんら不正を働こうとしていないスキーヤーでも、知らずにそれに類した付け方をしてしまい、リフト乗り場でそれを見とがめられ、チケットの再発行を受けにわざわざ事務室まで行かされる羽目に陥ったスキーヤーをずいぶん見た。
それでなくても長い行列で時間を無駄にしているスキーヤーにとっては全く腹立たしいことであるし、気の毒でもあった。最初からきちんとチケットの装着の仕方について説明すればよいのだが、そういった配慮が欠けるのである。

 こういった面が改良されるならば、大都市近郊にある優良スキー場として高い評価を得られるであろう。客としてやってくるスキーヤーのマナーの問題もあり、なかなか難しいとは思うが、願わくば良い方向へ向かって発展してほしいスキー場である。



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