Skiing Section / スキーセクション


『7月4日に滑って − ああ夏スキー』


夏のケーブルカー駅前
 『エルニーニョ過ぎさりし夏』。これが1998年の夏である。97−98シーズン、世界各地に気象異常をもたらし、大な被害を出したところもある。スコーバレースキー場のお隣、シエラネバダ山脈を越えたワインの産地ナパバレーなども洪水に見舞われたのだった。

 しかしアメリカ中の、いや世界中のスキーヤー・スノーボーダーにとっては恵みの雪に狂喜したシーズンだった。
記録的な大雪・豪雪・パウダースノー・・・、言葉は違えどその意味するところは同じである。

 そのエルニーニョの置き土産の一つがアメリカ独立記念日である7月4日の夏スキーのイベントである。スコーバレーをはじめ、アメリカ西海岸の大規模スキー場のいくつかには6月下旬になってもスロープにたっぷりと雪が残っていた。それもリフトがカバーするコースの最初から最後まで総てをカバーするほどの、である。
 そこで各スキー場では『Summer SKiing on 4th of July(独立記念日の夏スキー)』と銘打って1日あるいはその週末を含めての夏スキーの営業を行ったところがあった。 筆者はお気に入りのスキー場の一つであるカリフォルニア州レイクタホそばのスコーバレースキ場を訪れた。

 このくそ暑い夏の真っ盛りにスキーなんぞをしに来るたわけは筆者ぐらいなものだろう、とたかをくくったのが大間違い。午前8時半過ぎにスキー場に到着してみたらものすごい車の数。夏のリフトメインテナンスや改良工事のためにかなりの部分がふさがれているとはいえ、規模の大きな駐車場がほぼ満車状態。隣の駐車場へまわされるという事態から1日はスタートした。

 もちろんリフトチケット売り場は目を疑うほどの列、列また列。下手をするのシーズン真っ盛りの平日よりも混んでいるかな、などと冗談を言うほどの混雑ぶり。実に多くのスキーヤー・スノーボーダーが素晴らしき夏スキーを求めて集まったのである。ほとんどが半ズボン。Tシャツ有り、タンクトップ有り。元気な男性は上半身はだかだったり、女性は上だけビキニ姿という人もちらほら。

 とにもかくにもチケットを買い求め、ケーブルカーでハイキャンプへ。そして建物をでて前を見上げると「ウォーッ」と声を上げるほどの豊かな雪が正面上方に広がる。「来てよかった!」。



いざ雪に向かって歩かん!
 さていかな恵まれた環境とは言え夏真っ盛り、何事も真冬のスキーシーズンと同じようにいかないのは当たり前。ケーブルカーの山頂駅であるハイキャンプから雪渓のあるところまでスキーをかついで歩かなければならい。

 Tシャツに半ズボン、何十日かぶりにごつごつしたスキーブーツを履いて、腰には飲料水の入ったウエストバッグをぶら下げ、右肩にスキー、左手には杖代わりにも使うストックを握り締める。なにやら冗談みたいな、いでたちである。

 ハイキャンプの周囲は緑の芝生と玉砂利という整備された、歩きやすい遊歩道があるのだが、しばらくして本来ゲレンデとして使われる場所まで来ると、斜度はあるわ、石がごろごろしているわ、なんとも歩きにくい。たかだか300メートルくらいだったからそれほど不平も言わずに歩いたが、こんなものが500メートル以上も続こうものなら根性のない筆者はあさりギブアップしてしまいそうである。



これが真夏、7月4日のスロープ
 しかしひとたび雪渓までたどり着き、ブーツの裏の泥やごみを払い落としてスキーをはくと気分は一変する。なにせ生まれて初めてなのである。7月4日にスキーをするのは。
しかも目の前にはちゃんとリフトが動いている。目の前にも初級者用のゲレンデはあるがわれわれが目指すのはそのずっと向こうのシベリアボウルと呼ばれる、スコーバレースキー場で最も高い部分の一つ。
しかもここからは搬送能力の低い古いダブルリフトで行列しなければならいことはあっても、基本的にはすべてリフトを利用できる。重いスキーブーツを引きずり、これまた重いスキーをかついで、息を切らせながら雪の斜面をのぼる必要はほとんどないのである。



飲み物を求めてごったがえすバー
 シベリアボウルを高速4人乗りリフトでかけあがる。あたり一面、白銀の世界である。夏真っ盛りの、ぎらぎら輝く太陽と真っ青な空。その下に広がる白銀の世界。サングラスやゴーグルをしていなければ目がくらみそう。

 さすがに雪質はパウダーとはいかないのは予想通り。かなり湿気を含んだザクザクの雪。所によっては表面に泥がついていて軽快に滑っているスキーの板に突然の制動を与える場所もある。ワックスを丹念に塗ってきたにもかかわらずほとんど停りそうになってしまう状況もあった。

 しかし、しかしである。楽しい。本当に楽しいのである。97−98シースンを終わってたった2カ月ほどで、またこの楽しさを味わうことが出来たのである。しかもシーズン開始期の初滑りというものは、えてしてどんよりとした曇り空が多い。ところがこの日は、突き抜けるような青い空の下、太陽の光に汗をかきながら、涼しい風を求めて軽快に滑る。しかもレフトシステムは完ぺき。人の滑っていないコースや急斜面を求めて移動するときはスキーをかついで歩かなければならないが、欲をださなければひたすら滑り続ければよいのである。こんな贅沢をして良いのだろうか、と心配になるほどである。

おまけのTシャツ−先着500名様
 もっとも心配が当たった、と言えば言えなくもない。いいだけ滑って、からからののどとぺこぺこの腹をかかえてハイキャンプへもどる。『さあっ、ビールがうまいぞ!』とバーカウンターへ駆け寄ろうとしたら長蛇の列。
いや列ならば良かったのである。円形のカウンターには二重三重にも飲み物を買い求める人の輪が出来上がっているのである。しかもバーテンダーはたったの2人。さらに悪いことにはこのバーテンダーさん達は今日だけのアルバイト。
目も回るような忙しさに本当に目を回してしまい、いつまでたってもこちらの方まで注文をとりに来てくれない。待つこと40分。実に長い『おあずけ』をくらったビールはあれよあれよという間にのどを通りすぎていったのでした。

 ビールを飲んで日なたぼっこ。スキーを滑る前は『あとでプールで泳ごう』などとたくらんでいたのだが、午後になるとさすがに山の上。吹く風が少々冷たくなってきてしまい、ちょっと泳ぐ気にはなれなかった。(夕方、ケーブルカーで下界に降りたった瞬間の強烈な暑さにはたじろがされた。)こうなると腹を決めて、これ又すごい順番待ちのレストランを、のんびりと待つ。腹が空いてたまらなくなりにつれて、『こういう特殊な日は弁当持参で来るべきだな』などと反省会を開きつつの『おあずけ』である。

 最後にひとつ、この日はアメリカの独立記念日ということもあり、写真のTシャツが先着500名様にプレゼントされた。スキーをかついだスキーヤーが太陽に向かって歩く、の図である。
『4th of July, Endless Winter - Squaw Valley USA(7月4日 終り無き冬 スコーバレーUSA)』が書かれていた。


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