Skiing Section / スキーセクション


『スキーはプロに習え』

誕生、スキー大嫌い人間

 スキー経験者には2つのタイプがある。「スキー大好き人間」と「スキー大嫌い人間」である。スキー大好き人間については今さら論じるまでもあるまい。寝てもさめてもスキー、仕事中もスキー、夏真っ盛りでもスキー・・・ようするにスキー馬鹿であり筆者のお仲間である。ところがスキー大嫌い人間となると少々論じる必要がある。スキー楽しさを一人でも多くの人に知ってもらいたいという正義感からか、自分の仲間を増やしたいという身勝手さからかはちょっとおいといてこんな話を紹介しよう。


米国スキー指導教則本
 スキーの経験が全くなかった人間が、わずかながらでも経験のあるスキーヤーに誘われて山にやってくるのがこの話の始まりである。スキー場までの道中、経験者は生まれて初めてのスキーヤーにスキーの楽しさを思いっきり吹聴する。生まれて初めてのスキーヤーもスキー場への道中という旅行感覚も手伝って次第に期待に胸膨らませ始める。  さてスキー場に到着し、レンタルスキーを借り、リフトチケットを購入し、いざ出陣とあいなる。問題はここからである。ブーツを履くのも、スキーを持ち運ぶのも、ましてやスキーをつけた日には手かせ、足かせをつけられて全く動きがとれないのに、早く滑りたい友人は無謀にも(本人は決してそうは考えてない)生まれて初めてのスキーヤーをいきなりリフトに乗せて頂上へ連れていってしまうのである。
そしてリフトに乗っている間にいろいろと説明し(この場合は講釈をたれると言うべきか)、「大丈夫だよ、ちゃんと初心者用コースを滑るから心配しないで」とのたまう。(実際そう考えている)しかしこの経験者は自分が初めてスキーをはいたときの苦しみをすっかり忘れているのである。

 悲劇はリフト降り場から始まる。最近はデタッチャブルと呼ばれる、乗降場でスピードが極端にゆっくりになる新型リフトが普及しはじめた為、悲劇が起こる率がかなり減ってはきたが、チェアーから立ち上がり、わずかながらでもすべら滑らなければならない、あるいは速やかに降車場所(Unloading Area)から移動しなければならないことに変わりはない。生まれて初めてのスキーヤーがいきなりリフトに乗せられるとほぼ例外無くここで転倒する羽目になる。友達やリフトオペレーターに助けられながらなんとか降車場所から移動する。大抵の場合この友人スキーヤーも自分自身のスキー操作が目一杯で、転倒したスキーヤーを助けて移動させるほどの力量はなく、すべてをリフトオペレーターに頼ることになる。


スキー教師打ち合わせ Mt. Snow VT

 生まれて初めてのスキーヤーは友人に言われるがままにとにかくスキーを「ハ」の字に開き、前へ進もうとするのだがどうすることもできない。たまたま滑り始めてしまうと今度は曲がれない、止まらない、スピードを殺せない、の三重苦に見舞われる。結局メチャクチャな転び方をし、立ち上がれずにもがき苦しむことになる。
いらいらしながら待っていた経験者氏は「下で会おう」と捨てぜりふを残してさっさと行ってしまう。

 幸運にも丸一日かかって、命からがらスキーをつけたまま自力でベースロッジにたどり着けば上出来。途中でスキーをはずし、ぶつぶつ口の中で文句を言いつつ、ズボズボと雪の中に足をうずめながら歩いてベースロッジまでたどり着けばまずまず。不幸にも途中で変な転び方をして怪我をしてしまい、スキーパトロールの世話になり、けが人運搬用のそりに寝かされてファーストエイドに運ばれるもまたよし。なぜなら、とにもかくにも無事に生き長らえたのだから。しかし、ここでめでたくスキー大嫌い人間の誕生である。



スキー大好き人間への近道
それはスキースクール
 初めてのスキーヤーと初心者スキーヤーとは違う。
初心者スキーヤーというのは重たいスキーブーツを履き、長いスキーを装着し、杖にもならないストックを手にして、たとえよちよち歩きでもスキー操作ができるスキーヤーを示す言葉である。従ってどんなに長いコースでも、たとえ山の頂上からスタートしているコースであっても初級者用コースを滑っている限りは安全にスキーを楽しめるスキーヤーなのである。

 比べて生まれて初めのスキーヤーというのはそうはいかない。スキーブーツを履くこと、スキーブーツを履いて歩くこと、さらにはスキーとストックを持ち運ぶこと。ここから始めなければならないのである。
平地でのスキーの着脱の練習、片方のスキーだけを装着して歩く練習、慣れたところで両方のスキーを着けて歩く練習、ストックを使ってこぎ出す練習である。平地での最後の練習は転び方と起きあがり方である。
ここまできてやっと斜面に出られるのである。それも斜度があるかないかの本当に緩やかな斜面に、である。その緩やかな斜面では単に滑るだけではなく、横向きに斜面を登る階段歩行の練習も行うなど、スキーをより自在に操作するための練習もかねて行われる。止まる練習、スピードを制御する練習、ある程度方向を変えられるようになるための練習と続く。

 ずいぶん長々と書いたが実際にはそんなに長い時間を必要とするわけではない。感のいい人ならば1〜2時間、要領が悪いな思われる人でも3〜4時間の練習過程である。そのほんの何時間かを通り過ぎなかったために前述の悲劇(?)が起こるのである。

 スキー指導のプロは生まれて初めてスキーをつけたあなたをいきなりリフトに乗せるようなことは絶対にしない。リフトの乗れるようになるまでに何をしなければならないかを熟知しているのである。生まれて初めてのスキーヤーは必ずスキースクールを利用して安全にスキーを学ぶべきである。それがスキー大好き人間への道である。



親子げんかに夫婦げんか、その種は尽きないけれど・・・

 ある冬、筆者がアメリカ東部のスキー場の初心者コースでかいま見た日本人親子のスキー指導の一場面である。

父:「そうじゃないって、その右足を右に出して!」
  (ほとんど怒鳴っている)
子:「・・・・・・・」
  (なんとか立ち上がろうと必死にもがく)
父:「違う、違う、左のストックをこっちにだしなさい!」
子:「・・・・・・・」
  (右も左もわけがわからず、両腕をとにかく動かす)
父:「なにやってんの。立ち上がりなさい。ほら、そこ・・・・」


数人の子供に複数の教師がつくクラス
Killington, VT USA
 筆者は『この子が将来、スキー嫌いになりませんように』と祈るしかなかった。父親にとっても、もちろん子供にとっても楽しい、本当に楽しいスキー旅行になるはずだったと筆者は思う。『ふだん、なかなか遊んでもらえないお父さんと一緒にスキーができる』と子供にとってはワクワクするスキー旅行だったはずである。『仕事が忙しく、日々帰りが遅くなってしまい、面倒をみてやれない息子に今回はたっぷりとスキーを教えてやろう。一緒にジャンジャン滑ってやろう!』と、父親もさぞかし張り切ったことだろう。なぜこんなことになったのか。

 もう一つ例をだそう。ご夫婦でのゴルフのレッスンがわかりやすい。ご主人が奥さんにゴルフを教えるということで仲良く出かけたはずが、帰ってきたら夫婦喧嘩の真っ最中。
夫曰く「こんなに鈍い奴とは思わなかった。」
妻曰く「こんなに冷たい人とは思わなかった。『絶対離婚してやる』と何回思ったか。」
身に覚えのある方、聞き覚えのある方も多いのではないだろうか。ゴルフをスキーに置き換えてもストーリーの意味すると所に変わりはない。

 親子、夫婦、兄弟あるいは恋人同士でスキーを教える。洋の東西を問わず、ほとんど例外無く失敗するようである。親子であっても夫婦であっても教える側がスキーを教えるということに関して素人であることに変わりはないのある。教え方が稚拙になってしまう。さらには教える側と教えられる側が親しい関係にあることが逆効果になり、失敗の度合いがむしろ高くなるようである。つまり初心者に物事を教授する際に最も大切な『忍耐強く待ってあげる』いや『我慢する』といってもよい姿勢がとれないのである。教え方がどうのというより、この『待つ』という心構えの方が初心者にスキーを教えるときの大きなポイントである。


子供のプライベートレッスン
Mt. Snow VT USA Killington, VT USA
 こんな言葉も耳にする。「生まれて初めてスキーをする人間がスキースクールに入ったらレッスンについていけないのでは」とか「うちの女房みたいに鈍い奴をスキースクールに入れたら、周囲に迷惑をかけてとんでもないことになる。」というもの。

 生まれて初めてスキーをする人だからこそスキースクールの門をたたいてほしいのである。スキースクールには生まれて初めてスキーをする人たちのための専用クラスが用意されている。ほとんどの場合、特設会場を用意し、参加者が安心して、楽しくスキーにトライできるように隅々まで配慮されたクラスである。しかもクラスの参加者は皆、生まれて初めてである。こんな心強いことはない。

 うちの女房みたいに鈍い奴云々・・・。ふたを開けてみたらその逆だった、は極端にしてもスキースクールのクラス分けに関しては心配ご無用。上級、中級、初級をさらに幾つかのクラスにわけ、参加するスキーヤーに実際に滑ってもらった上で、そのスキーヤーに最も適したクラスへ振り分けてくれる。

 「うちの子は英語がまったく不得手なのでとてもスキースクールには入れられない」というのも親の勝手な判断。普通の学校教育と一緒に論じることは出来ないが、ことスキースクールに関しては、スキーという目的・手段が目の前に見えているので子供の方が順応能力ははるかに高い。筆者がバーモント州のキリントンスキー場でインストラクターをしたシーズン、やはり言葉の問題が気になり、ランチタイムにジュニアクラスのテーブルを回って歩いた。少なくとも日本語の通じる筆者に助けを求めてきた子供はいなかったし、ジュニアクラス担当のインストラクターとの会話でもその件で困難を極めることはない、という返事だった。

 『餅は餅屋』という言葉があるようにスキーはスキースクールあるいはスキーインストラクターに習え、である。


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