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『頭の痛くなる話』


 日本からのスキーヤーに限らずアメリカ国内でもそうだが都市生活者というか通常、平野部で生活しているものがいきなり標高の高いスキー場に来ると直面するのがいわゆる高山病である。日本で高山病などというと山登りをする人たちの話、あるいはスキーヤーには縁のない話しと思われがちだが、アメリカロッキー、ヨーロッパアルプスとなると我々普通のスキーヤーも無視できない身近な話となってしまう。

 中学生のときに使った地理の地図帳などで北アメリカ大陸をみると、アメリカ合衆国のほぼ真ん中から東側が黄緑色、西側が濃い茶色になっているのがわかる。ちょうどこの境目に当たるのがコロラド州デンバーである。
何年か前、車でニューヨークを出発した筆者はイリノイ、アイオワ、ネブラスカ、コロラド州の東半分といっただだっぴろい平野部をひたすら運転したことがある。そしてデンバーの町を見た途端、その背後に高々とそびえるロッキー山脈のシルエットにおもわずハンドルを握りながら感嘆の口笛を吹いたのを憶えている。
デンバーの町を過ぎると一気に、本当に一気にロッキー山脈を駆け上がることになる。たとえばデンバーからインターステイツ(高速州間道)70号線を西に走って最初に現れるメジャーリゾートであるキーストーンスキーリゾートの場合、ホテルなどが立ち並ぶベース標高が9300フィートつまり2386メートル、頂上は11640フィート、3550メートルとなる。 富士山の標高が3776メートルであるからその高さが容易に想像がつくであろう。問題はスキーを滑っているときだけ高いところにいるのではなく、滑り終わった後も、極端な話寝ている間もそういった標高の高い、空気の薄いところにいるということである。

 さて筆者の体験談を話そう。ロッキー山脈に到着した翌日。前述のキーストーンで初めてスキーを滑ったときのことである。駐車場に車を止め、スキーブーツにはきかえ、スキーを肩にかつぎ、意気揚々とリフトチケット売場までの約200メートルを歩いたときである。
とにかくしんどくてたまらないのである。やたら息苦しいので『変だな』とは思った。しかしあこがれのロッキー山脈のスキー場での初滑りということで興奮していたため、その時点での体の変調に気がつくゆとりがなかった。ゴンドラで山頂へいき滑走開始。きれいにグルームされた中級斜面をパラレル系の滑りで身体の力を抜いて滑っている内は良かった。
「さあっ、身体も暖まってきたしコブのコースへ」と入っていったところでびっくり仰天。モーグルコースをスタートした直後、それもコブを3つほど滑り抜けたところで息が苦しくて滑りを中止し、その場に座り込んでしまい、しかもしばらく動けなくなってしまったのである。
3歳でスキーを始めて以来はじめての経験であった。ぜいぜい、ぜいぜいと激しく肩で息をしながら何分ぐらいへたりこんでいただろうか。苦しいのと驚いたのとでしばしパニックに陥っていたというのが正直なところである。

 到着した前の晩に宿所にしていたベッドアンドブレックファーストの従業員に「ここは高地だから身体が慣れるまで酒を控え、水分を補給し、・・・・」と言われたことを思い出し、『こんなにもしんどいものなのか・・・』と改めて実感したものである。
もちろんその晩、同宿のアメリカ人と話して「なんと無謀な奴!」と大笑いされたのは言うまでもない。

 一口に高山病といっても息切れ、動悸、頭痛などの軽度のものから吐き気、不眠、無感覚状態などの中程度のもの、肺の内部に突然水腫ができるなどの心肺機能障害といった重度のものまでいろいろある。一般的な高山病対策を紹介しよう。

1. 到着後72時間はおとなしくしている。
 8000フィート以上では人間の身体がその環境になれるまでに3日間が必要と言われている。一般的には息切れがし、心臓の鼓動が激しくなる。
とはいっても日本からわざわざスキーに来て目の前の素晴らしいゲレンデを指をくわえて見ているのもつらいところである。決して到着直後からの滑走はお勧めしないが、もし滑る場合は初日、2日目と徐々にその内容をタフなものにしていくことが重要である。
初日はとにかくスキー場の下調べ的なものにするとか、短い時間だけ滑るといった体調にあわせた工夫が必要である。


2. コンスタントに1日、約4リットルの水分を補給する。
 高地は空気が乾燥している上、普段よりも余分に発汗する傾向があるといわれている。そのため体内の水分を補充する必要がある。さらに空気中の低酸素からくる酸素の不足状態を補うために水分から酸素を摂取するのというのが重要な目的となる。
飲みたくもないのに水を飲むというのは結構つらいものがあるが無理して飲むことが必要である。ただし1日に1回だけガバガバ飲む、というのでは意味がない。朝起きてから夜寝るまでの間、スキー滑走中も含めて、コンスタントに摂取するというのが重要である。年がら年中水の見場へ行くわけにも行かないので、写真のように小さなボトルに入ったミネラルウォーターを持ち歩くのも一つの手である。
ただし水分とはいってもコーヒー、ビールは良くない。よけい脱水状態が進んでしまうそうである。



3. 炭水化物・・・フルーツ、野菜、シリアル、パン、パスタをすすんで摂取する。
 スキーヤーの1日の消費エネルギーは3500〜5000カロリーといわれている。その内の75%が炭水化物から、15%が脂肪から、10%が蛋白質から消費されている点を考えればうなずけるところである。ステーキを食べれば元気になるとは限らないのである。


4. 睡眠薬・アルコールを摂取しない。
 眠れないからといって睡眠薬を服用したり、「一杯ひっかければよく眠れるさ」というのが実は大きな間違い。
共に睡眠中の呼吸機能を低下させるため酸欠状態を促進することになる。
結果として何回も目覚めることになり疲れがとれにくくなる。
もちろん『激しい運動』ともなりかねないディスコなども当初は避けるべきであろう。

 一般的な対処療法を述べたが、コロラド州のキーストーンにある高山病研究所の発表によると、コロラドのスキー場を訪れる20〜30%は頭痛・食欲減退・無関心・吐き気・めまい・眠気・不眠といった症状が単一で、あるいは複数重なってあらわれるとこと。呼吸が苦しいなどの症状を併せるとその数字はもっと高くなる。最初は風邪をひいたかな、と錯覚するようである。
スキーの最中に頭がくらくらしたり呼吸が激しくなった場合、深呼吸などをして呼吸を落ちつかせること、キャンディーや果汁入りジュースの摂取などでエネルギーの補給が大切になる。

 希なケースだとは思うが心肺に持病がある場合もその諸症状が出やすいし、12000フィートを越えた場合、肺に水腫ができる重度の症状が起こる場合がある。そういった重度の症状が出た場合は即刻、医者の治療を受けるべきである。

 いずれにせよ慣れない環境に身をおくことだけは間違いないので身体に変調が無いかどうか常に注意しつつスキーを楽しんでいただきたい。


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